広島高等裁判所 昭和25年(上告)145号 判決 1951年3月23日
上告人 被告人 北村邦夫
弁護人 岡崎耕三
検察官 津秋午郎関与
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人の弁護人岡崎耕三の上告趣意は末尾添附の上告趣意書記載の通りである。
衣料品配給規則第三条第一項にいわゆる衣料品の販売の業とは利益を得る目的で継続反覆して衣料品の販売をなすことを指称するものであるが、その者が他に主たる営業を有していても又たとい販売の行為が一回であつても継続反覆の意思が認められる限り販売の業と認めるに妨げない。今本件につきこれを観るに原審公判調書中被告人の供述記載に依れば、被告人は家族多く生活困難なため利益を得る目的で本件衣料品を他から購入してこれを星野辰雄に転売したもので右衣料品は同一規格品で取引数量も相当多量であることが認められ、右事実と星野辰雄提出の買受始末書の記載を綜合して考察すると被告人の所為は偶発的一時的のものでなく、継続反覆の意思の下になされたことが優に窺われるので、原審が被告人の判示所為を目して販売の業を行つたものであると認定したのは相当であつて、原判決には所論のような法令の違反はない。論旨は理由がない。
よつて旧刑事訴訟法第四百四十六条に従い主文のとおり判決をする。
(裁判長判事 和田邦康 判事 秋元勇一郎 判事 小竹正)
弁護人岡崎耕三上告趣意
原判決には法令違背の誤りがある。
即ち、被告人が印刷彫刻を業として衣料品の販売を業とする者でないことは被告人の警察、検察庁並に原審及び第一審を通じて供述しているところであることが認められ、且つ本件違反取引と目されるものは実に偶発的なる一時的販売であつて業としてなされたものでないことが認められる。然るに原審は慢然被告人が販売の業を営んだものとして衣料品配給規則第三条を適用処断したのは明に法令違反である。仍て原判決は当然破毀さるべきものである。